だいたい正しそうな司法試験の勉強法

「だいたい正しい答案」が「なんとなく書ける」ことで、司法試験に一発合格したおっさんの勉強法

モチベーションの維持

序論

 「勉強するモチベーションの維持が大変です」と良く聞きます。

 基本的には、「嫌なら辞めなさい。勉強は贅沢なんだから。」という林修先生(=私の高校の先輩でもある)のお言葉に激しく同意します。古来、「好きこそ物の上手なれ」と言いますし、結局、仕事でも勉強でも恋愛でも、好きになって一所懸命取り組まないと結果なんて出ません。

以上!

…ではあまりにも投げやりです。そもそも、趣味でも恋愛でも、好きになる過程において、一定の時間やコストを投下するのが通常ですから、最低限のモチベーション持続力が備わっていないと、好きにもなれないような気もします。というわけで、私が試したモチベーションの維持方法をご紹介したいと思います。

問題提起

 さて、いったいぜんたい、どうして勉強のモチベーションは落ちがちなのでしょうか。社会人経験者の私が見たところ、なんだかんだいって、やっぱり営利企業の方が(全体として)モチベーションを保って仕事をしている人が多いように思います。そうじゃないと困るけどね。
 そこで、会社業務との違いを考察しますと、法律学習は、①ゴールが見えない。特に、報酬が無いということ。次に、②他人の目線、サポート、叱責が無い(個人作業である)こと、の2つが大きいように思います。
 だとすれば、とりあえず、この①②をなんとかするのが良いのではないでしょうか。

解決方法

①グラフで勉強を見える化する

 という訳で私がまずやったことは、「勉強の(成果の)見える化」です。厳密に言うと、成果(試験結果)ではなく、どんな問題を何問解いたか、という作業実績を週ごとに集計し、グラフにしていました。

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 まあ、こんなんでも、無いよりはマシです。「えへへ 今週は先週よりちょっと勉強できたな 偉いよ俺」とかつぶやくことで、自分で自分に報酬を与えます。うーん気持ち悪い。こんなんやってるの俺だけだ、と思っていたら、司法試験予備校の資格スクエアさんが、勉強により経験値がたまりレベルが上がる!というRPG的な要素を導入する、みたいな話をチラッと聞きました。やっぱりこういうのも大事なんですね。
 なお、このグラフや表を使った勉強の管理方法の詳細は、下記記事をご覧下さい。

daitai.hatenablog.jp

②実効性のある契約で外圧を設ける

 やっぱり、なんで仕事を一所懸命やるの?という問いの答えの一つには、部下にかっこ悪いとこ見せられないから、同僚が助けてくれるから、上司に怒られたくないから、等という「他人からの圧力」があるのだと思います。

 私の場合は、奥さんに働いてもらいつつ3年間無職になる、という、とてつもなく危険かつ大迷惑なお願いをしたこともあり、「法科大学院1年次の成績が上位20%に入らなかった場合、理由の如何を問わず即退学する。司法試験に一度落ちたら、即撤退する。」という覚書を奥さんと締結しました(実印押した)。
 なんで20%かというと、入学を予定していた法科大学院の未修コース修了者の司法試験合格率が平均して20%前後だったからです。後から判明したのは、あくまで「未修コース修了者の」合格率が20%というだけで、未修コース修了者の現役合格(一発合格)率は10%前後だった年度もあったので、本来は上位10%としておくべきでした。

 この覚書のおかげで、文字通り、死にものぐるいで頑張れました。やっぱり外圧って大事ですね。ありがとう奥さん。この覚書は、私が人生でしてきた約束の中でも、最も重要かつ役に立つものだったと思います。

まとめ

 今日は、いつにも増していい加減なことを書きましてすみません。筆者のキャラクターをご理解いただければ幸いです。もっとまともな情報が聞きたい!という方は是非コメント欄でご希望をお伝え下さい。

 

基礎演習行政法〔第2版〕-行政法を制する者は、司法試験を制する-

基礎演習 行政法 第2版

基礎演習 行政法 第2版

 

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 問題意識高い ★★★★★ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★★ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★★

・ひとことで言うと「行政法が苦手な人の最初の一冊」

雑感

 「行政法は、書き方(答案の作法)がわからない」という人は多いと思います。これに対して、「結局、行政法も法律なんだから、基本になる民法や刑法と同じように、法的三段論法で書いていけば良いんだよ…」というアドバイスもよく聞きます。が!私の感覚としてはむしろ逆です。
 むしろ、行政法の答案が上手に書けるようになると→他の科目も上手に書けるようになる(ような気がする)と思います。

 確かに、全ての法律答案は、(⓪争点以外の要件あてはめが終了したことを前提に)、①問題文から争点を抽出して(問題提起)、②条文を解釈して規範を定立し(規範定立)、③事実の抽出とその評価(あてはめ)、④結論、と書いていくわけです(下記記事もご参照ください)。

daitai.hatenablog.jp

  で、問題はむしろ民法、刑法の方だと思います。すなわち、いつも条文は変わらない(同じ法律)なので⓪をおざなりにしても、とりあえず論点に飛びつけてしまう。さらに、上記の①②(問題提起&規範定立部分 いわゆる論証パターン)を暗記してしまっているが故に、なんとなく書けてしまうところにあると思うのです。

 その点、行政法は題材となる個別法が毎度異なるわけですから、そもそも①②部分は、暗記不可。自分の力で問題を発見し、法的論証を展開しなくてはならない。よって、行政法の答案が上手に書けるようになると、他の教科も単なる暗記ではなく、上記⓪~④を意識して上手に書けるようになる。のではないでしょうか。
 従って、行政法が苦手、または答案の書き方がわからない、という人は単に法律答案が苦手、又は単に暗記が得意なだけということだと思います。

 さんざん偉そうに講釈垂れましたが、私も行政法は苦手でした。最終的には、ドル箱に(暗記があまりいらないので効率が良い)。そんなキッカケとなったのが本書です。

内容

 正統派の演習書です。行政法の、シンプルな事例をベースに、「これを知らなきゃ死亡」レベルの行政法の論点(というか考え方)が約30個掲載されています。解説ですが、本書か、基本行政法 第3版 を読んでわからなかったらもう行政法はあきらめるしかない、というレベルの分かりやすさです。
 さらに、演習書ですから、「書く」ことが強く意識されているところが美点です。要件の整理、争点の指摘、規範定立、あてはめ(上記⓪~④)が簡潔明瞭に記載されており、このまま答案に書くことができる「研究者による論証パターン」といっても良い内容です。予備校の行政法の本はだいたいロクでもないので、これは大変ありがたいです。

特に良い点①要件の整理

 行政法は、処分性や原告適格の判断、国賠法上の違法性など、そもそも要件は何なのか、要件事実は何なのかがハッキリと固まっていない重要論点があります。行政法の判例を読むと、いつも「…よって、抗告訴訟の対象たる処分にあたるとはいえない」と、ときに唐突に結論が来るように読めてしまい、このことが受験生に苦手意識を植え付ける原因の一つになっていると思います。

 本書は、とにかく、要件の整理が上手いです。しかも、理論的・体系的に要件を導出するのではなく(土田先生はそう書かれたいとは思うのですが)、受験生の書きやすさ、すなわち「あてはめやすいかどうか」を重視して要件を整理して下さっています。
 特に、処分性の判定作業(本書73頁~)や、損失補償の「特別の犠牲」の判定(本書288頁)はとてつもなく使いやすいもので、後者なんかは岡口判事の要件事実マニュアルに載せればよいのに…と思います。

特に良い点②個別法の解釈

 次に、これまた受験生の苦手なところですが、本案における個別法の解釈です。これまた、そのまま答案となるレベルの記載のオンパレードです。「行政裁量の有無」について、講学上の特許だ~とか不確定概念だ~とか専門性、技術性だ~とか色々習ったけど、結局書き方わかんねっす。という人は、本書179頁の3.等を読んでみて下さい。ズバリ、こうやって書きましょう。

特に良い点③学習のアドバイス

 最後に、民事訴訟法概論 等の近時の書籍と同様に、「教育の現場で」という学習に関するアドバイスを記したコラムがあります。これも全部使えます。

 「少なからぬ学生が、処分が登場する事案の場合は抗告訴訟が適切であり…登場しない場合は当事者訴訟が適切である」と理解しているように見受けられる…しかし、厳密にいえば、このような理解は適切でない」(本書23頁要約)

 「違法性の承継という問題があること…通常は処分と処分の間で問題になること…判定基準について一応の理解を得ている。ところが、これらの理解がかえって仇となり、不適切な起案がされることがある」(本書250頁要約)

 う~ん、私も添削を頼まれたとき、この2つはよく見ました。まさに実践的アドバイス。

…と、いうわけで、本書では、初めてみる法律の素直な解釈作業を学ぶ、という作業の中で、行政法はおろか、上記⓪~④の法律答案の基本作法が学べるといって過言ではありません(ベタ褒め)。文体も論証向き、網羅性も高い、近時の重要判例もフォロー(平成27年の処分基準と訴えの利益等)、薄い(300ページ)、と良いことづくめの本書ですが、やはり薄さの唯一の弊害で、ごくまれに解説の深堀度が物足りない部分もあります。そういう部分は、基本書を開きましょう。

用途

 とにかく、初学者の一冊目としてはもちろん、勉強が進んだ方でも改めて読む価値は高い、まさに行政法必読の一冊だと思います。上記の通り、行政法が苦手な人は、個別法の色々な論点を知らないのではなく、単に法律答案の基本が出来ていないことが多いと思いますので、事例研究行政法 をやっている場合ではありません(なお、同書も非常に良書)。今すぐ本書に乗り換えましょう。

 要領の良い人なら、本書1冊「のみ」を購入して、何度も回せば、予備試験合格レベルまでは到達できると思います(短答除く)。それくらい高いクオリティです。普通の人でも、本書+基本書+判例集( が圧倒的におススメ)だけで、予備試験合格レベルまで達すると思います。本書が「もういい加減飽きたわ…」というレベルになってから、事例研究行政法 や、事例から行政法を考える (法学教室ライブラリィ)

 に進んでも、全く遅くはありません。むしろ王道だと思います。なお、お金が無いなぁという人は、初版(の中古)でもそんなに問題は無いかと思います。後輩にあげてしまったので確認できませんが、論点が数個少なく(確か、行政調査とかかな…)、最新判例のフォロー等で記述が10%ほど少ない、といった程度だったと思います。

あると便利な勉強グッズ10選(前半)

今日は毛色を変えて、私が購入して、実際に勉強に利用していたお役立ちグッズを紹介します。

1.タイマー

  タイマーは学習に必要不可欠です。まず、試験の時間管理のため、①2時間以上のカウントダウン機能が必要です。市販のタイマーの多くが99分59秒までしか測れないので、気をつけて下さい。次に、普段の学習の時間配分のため、ストップウオッチではなく、②1秒ずつのカウントアップをオススメします。このタイマーは、①②の機能があり・安く・かつ机上に置いた時に見やすく・ボタンが大きいので押しやすい、とかなり優秀です。私のタイマーも使用3年目に突入しましたが、故障もなく、司法試験本番でも活躍してくれました。

2.ネコちゃんペン 

  司法試験のペンと言えば、ゲルインキのサラサ、エナージェル、油性インクのジェットストリームあたりが定番でしょうか。ペンは非常に重要な武器ですから、自分に合うモノを早期に見つけて、体に馴染ませましょう。私の場合は、滑りが良いペンが好きだったので、エナージェルを愛用していました。万年筆も良いのですが、「インクが乾いたかな?」とか余計なことを考えなきゃいけないのでパス。エナージェルは、(多分)最も滑りが良いペンなのですが、インクの減りがめちゃくちゃ早いので、司法試験には3本くらい予備を準備して挑んでました。なお、キャップ式よりもノック式の方が重量バランスが良く、オススメです。なお、ネコちゃんペンとは、エナージェルのネコ柄(限定で今はあまり売っていない)の愛称です。

3.ブッククリップ
プラムネット ブッククリップ

プラムネット ブッククリップ

 

  勉強が板についてくると、演習書を広げたまま、基本書も判例集も広げる、ということが頻発します。その方が効率的なシーンがあるのです。判例集はほとんどの場合「百選」という薄いヤツなので、「ペタっ」と開いておけるのですが、問題は、極厚の基本書です。このブッククリップは、かなりのゴツさと重さ、挟む力の強さを兼ね備えており、江頭会社法レベルの強敵も開いたままにしておいてくれます。にも関わらず、挟む面にはフェルトがついているので、本にも傷や跡がつきません。相当優秀な子です。たま~に壊れる(バネが強いので、どこかにぶつけると弾みで分解する)のですが、コツをつかむとすぐに直せるようになります。

4.後付けしおり

  司法試験に向けた学習は、よっぽど上手くまとまったテキストを入手し、かつ、そのテキストを5,6回は読み続けるという忍耐力が無い限り、様々な本(とはいえ、通常は、基本書+判例集+演習書+αの4冊)を行ったり来たりして読むことになります。「あ!この論点…あの本のあそこらへんに書いてあった!」と気づいてから、当該箇所を見つけ出すまでに時間がかかる時のイライラっぷりと言ったらありません。にも関わらず、受験生の主力的ポジションにあるリーガルクエストシリーズ(有斐閣)にはしおりがついていません。という訳で、後付けのしおりが大活躍です。ナカバヤシのしおりは、様々な色が選べて、基本書にフィット(完全な自己満足)するところと、紐が2本ついているところが美点です。ポストイットでも良いんじゃないの?という説がありますが、ポストイットをしおり代わりに使うと、「ここわからない!」「ここも重要!」とガンガン貼っていき、最終的に、貼りすぎてどこが大事がむしろわからなくなります。要するに、「無限のしおり」があると思ってしまうと、いくらでも貼ってしまうからダメなんですね。でもって、大量のポストイット貼付部分を読み返す気力が失せます。この様にして、大量ポストイット(しおり用途に限る)ユーザーで、あまり優秀な人に出会ったことがありません。本は集中して読み、今日読んだところに1本目のしおりを挟む。そして、その日わからなかった部分の中から最も重要だと考えるところに2本目のしおりを挟み、翌日もう一度読む、つまり確実に復読する方が学習効果が高いと思います。なお、ポストイットはしおりにさえ使わなければ大変有用ですので、別の機会に記事にします。

5.指サック(会社法専用)
コクヨ リング型紙めくり メクリン Mサイズ 5個入 透明グリーン メク-21TG

コクヨ リング型紙めくり メクリン Mサイズ 5個入 透明グリーン メク-21TG

 

  当然ですが、六法が早くひけると、試験では有利です。試験でない普段の学習においても、六法はひいたらひいただけ実力がつきます。良く会う人の顔や名前や性格を覚えるのと一緒です。というわけで、指サックはおすすめです。特に、大体の初学者にとって、会社法はその条文数に絶望するというセレモニーが待っていますので、勇気と根性で六法をバンバンひくために、指サックが活躍してくれます。指サックは色々試してベストフィットのものを選ぶしかありません。私の場合は、指がすっぽり入るやつはあまり好きではなかったので、人差し指にメクリンMサイズ、親指に同Lサイズ、の取り合わせで愛用していました。

会社法の学び方

会社法の学び方 (法セミLAW CLASSシリーズ)

会社法の学び方 (法セミLAW CLASSシリーズ)

 

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 問題意識高い ★★☆☆☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★☆☆☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★☆ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★☆

・ひとことで言うと「ちょっとハイレベルだけど分かりやすい副読本」

雑感

 まず、筆者は商法が得意好きです。かなり色々な本を読んでおり、好きな本もたくさんあります。全部オススメしたいところなのですが、近時の商法の(学生向け)書籍の中でも、最も面白かった!すごい!と思った本をご紹介します。なお、司法試験との関係で言えば、私は会社法 第4版 (LEGAL QUEST)Law Practice 商法〔第3版〕、すなわち、最もベーシックな基本書&演習書をやり込めば充分だと思いっています。

内容

 会社法の論点17個を論じる、論点集です。「論点」といっても、「取締役の会社に対する責任」「少数株主の締め出し」という広いものですから、一つの条文の解釈=狭義の論点、ではなく「テーマ」や「トピック」といった方が良いかもしれません。
 内容のレベルはかなり高く、正直、司法試験に出るか出ないかまさにギリギリ、といったものです。例えると、

daitai.hatenablog.jp

 のさらにちょっと難しい商法版というところです。
 著者の久保田先生のはしがきを要約すると、当初「会社法の基礎」と題した法セミの連載で、①「それについて知ると会社法のことがよく分かるのに、多くの教科書では十分に説明されていなかったもの」②「近時のホットトピック」を取り上げていったところ、「基礎」というイメージからは少し離れた内容も含まれてしまった、とのことです。

 この本の最も素晴らしいところは、当初の「基礎」と名付けていたことからもわかるように、「かなり発展的な問題 又は理解が難しい問題」を「誰でも知っている基礎的な概念、原則、条文の趣旨から→演繹して説明する」、すなわち、上記の①②の論点について、③「基本はこうである→よってその応用はこうなる」という法的な論証の最良の見本(のひとつ)を、久保田先生が提示してくださっているところです。
 よく学習者から、「そんな難しい論点は知りませんでした」「知識が無いので書けませんでした」という話を聞きますが、門外漢の筆者からすれば、「じゃあ、その論点ズバリじゃなくても、論点に関連する基本的な知識はわかってるの?」と思ってしまいます。今日、AIでさえズバリのデータが無くても推論するんですから、人間ならなおさら、応用力を効かせて欲しいものです…。

 あ、愚痴っぽくなってしまいましたが、とりあえず、本書の内容をイメージしてもらうために具体例を上げてみます。各論点についての、具体的な書き方なんかは、機会があったらまた記事にします。

①「意外と説明が不十分な論点」の例

(よくある説明)「新株発行の無効事由」でいうと、新株発行につき、株主はこんな利益を有していて~取締役はこうで~転得者や債権者などその他の利害関係者もいるから~無効事由はこうなる。なお、非公開会社については、転得者がいない等、事情が異なるから、無効事由はこうなる。→ ふーん、そういうもんね。

(本書の構成)そもそも、公開会社と非公開会社は制度設計が違う。株主が会社に期待していること、株式に対して重視している利益も違う。株主総会開催コスト等、取締役側の利害状況も違う。それぞれの制度設計・利害状況の違いからすれば、無効事由はこうなるはずである。

 → 新株発行の無効事由を再度学び直すことで、制度設計についての理解が深まり、論証はきれいになり、未知の論点への対応力がつく。なお、説明それ自体は、具体例(非公開会社では…株主が役員として報酬を得るなど、持株比率と結びつく経済的利益も少なくない 本書134頁)を交えつつ、簡潔かつとてもわかりやすい。

②「近時のホットトピック」の例

 例えば、やや簡単な所でいうと、支配権異動特則(会社法206条の2)関係の法令違反は、無効事由となるか、という論点。工藤北斗先生も取り上げていますが(工藤北斗の合格論証集 商法・民事訴訟法)、正直、本書の論証が一番わかりやすく、美しいと思います。
 非常にシンプルで、公開会社における判例の実質的な判断基準は、差止めの機会の確保にある→実質的に差止めの機会があったといえるか→(金商法上の開示等も含めて)差止めの機会があるとはいえないことがほとんど→よって無効事由。というものです。

 ちょっと難しいものでいうと、非公開会社において、新株発行に必要な株主総会決議を欠くことは無効事由とされていますが(最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁)、じゃあ、非公開会社で、新株発行に必要な株主総会決議に取消事由があった場合はどうなるでしょう。この場合、株主総会決議取消訴訟の提訴期間3ヶ月(会社法831条1項)は遵守しなければならないでしょうか?等。難しいので、考えてみて下さい。

用途

 上記の①にせよ、②にせよ、ある程度会社法の学習が進んでいることが前提条件でして、少なくとも会社法 第4版 (LEGAL QUEST)くらいは読了した上で副読本として読むべき本です。そのうえで、

 会社法を読むだけで泣けてくるくらい苦手な人(よくいますよね)は、①による会社法の理解を狙って読む価値があります。

 会社法を読むだけでニヤニヤしてしまうくらい好きな人(あまりいませんね)は、②による司法試験高得点を狙って読む価値があります。最初に述べた通り、本書のレベルはかなり高いのですが、とても司法試験に出ません、というものではありません。上記の、非公開会社で、新株発行に必要な株主総会決議に取消事由があった場合はどうなる?は出題されても文句は言えない(ギリギリ)でしょう。

 また、本書は220頁と薄いので、息抜き的にも読めます。「基本はこうである→よってその応用はこうなる」という、③あらゆる科目で「感じが良い、と評価される答案」の基本的な作法を学ぶために読むのも、楽しいと思います。

民事訴訟法概論

民事訴訟法概論

民事訴訟法概論

 

・説明が わかり辛い ★★★☆☆ わかり易い

・内容が 問題意識高い ★★★☆☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★☆☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★☆ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★☆

・ひとことで言うと「高橋説が馴染めば最強の基本書」

雑感

 民訴は難しいですねぇ。平成30年司法試験も難しい、というか出題趣旨が把握し辛く←こういうのは単なる勉強不足の言い訳です、私は唯一Bをとってしまいました。残念。
 民訴が「眠素」となっている理由は色々ありますが、その中でも最強なのは、訴えと請求の概念、訴訟物の概念、当事者の概念… と、学習のスタートの段階で、抽象的概念を色々と教え込まれるのですが、それが何の役に立つか、サッパリわからない。ということにあります。だいたい、最初で嫌いになって、そっから先はずーっと苦手、という人が多発します。

 そこで、よくオススメされる民訴攻略方法が、「とりあえず薄い本を通読して民事訴訟の全体像をつかめ」というやつです。これは間違いなく正解です。既判力がわからなければ、訴訟物も当事者もわかりません。逆もまたしかり。
 基礎からわかる民事訴訟法も、民事訴訟法 第3版 (LEGAL QUEST)も、とても良い本です。が、これら(600~700頁)を1通読する時間があれば、薄い本なら1.5~3通読!することができ、民訴の全体像をより迅速に頭に叩き込むことができます。
 薄い本の圧倒的オススメは、民事訴訟法 第2版 (有斐閣ストゥディア)なわけです(なんと290頁)が、その対抗馬(400頁)が本書です。

内容

 ①まず、とにかく薄いです。これにより、上記の通り民訴の学習に必要不可欠な、「全体の見通し」が早くつかめます。なお、網羅性もかなり高く、この本を何度も通読しておけば、試験当日、全く知らない論点に出会う確率はかなり低くなると思います。

 次に、本書の特徴として、400頁に削ぎ落とした結果でもありますが、②記述が非常に簡潔明瞭で、「ほとんど答案じゃん」という「書きやすい文章」になっています。
 例えば、本書241頁。まず、見出しで「(3)訴訟上の和解の効力は、どう考えるか」とあり、これは答案上の問題提起そのものです。これに続く回答も、「和解は当事者の合意による自主的紛争解決であり、裁判官の判断という既判力の前提を欠く、当事者の合意に基づく以上、無効・取消しという意思表示の瑕疵を救済しないのは妥当ではない…から既判力は否定すべきである」と簡潔にまとめられており、これまた、そのまま答案に書くことができます。
 もっとも、「文体」が書きやすいかどうかは別物で、高橋先生独特の言い回しが多数登場します。「色彩を帯びる」とか。民訴の答案を読むと、この人は高橋説だな~とすぐわかります。これさえ気にならなければ(私はむしろ優美で好きでした)、最強の「書く教科書」の一つだと思います。

 ③学生に対する学習のアドバイスがたくさん出てきます。「長く教師をしているおかげで、学生諸君がどこでつまずくか、多少の見当が付きます(本書はしがきより)」。以前書いた、「基本書の読み方」についてのアドバイスも出てきます(本書12頁)。
 もっとも感銘を受けたのは、「学生諸君の答案…では…なにを論じても必ず手続保障ないし不意打ち防止に結び付けなければ気が済まないようである…民事訴訟法の解釈は適正・公平・迅速・経済という理想をどうバランスさせるかがより重要であり、手続保障一本槍では単なるスローガンに堕してしまう。精密に分析し、考え抜かれた論拠を持ち出さなければ説得力は生まれない。…複眼的でなければならないのは民事訴訟法の解釈だけではないであろう」というアドバイスです。ううむ。かっこいい。アドバイスも美文です(主観的には)。

 この様に、民訴法学習の方法、法律学習の方法をも提示してくれるのが、本書の大きな特徴の一つです。

用途

 高橋語さえ気にならなければ、民訴法の「最初の一冊」としてかなりオススメできる本だと思います。新堂説・高橋説が全面にわたり展開されており、それを不安に思う方もいるかもしれません(判例じゃないの?的な)。しかし、司法試験・民事訴訟法は、「○○っていう判例があるよね、でも本件は○○とは違うよね、じゃあどうなるかな?」という出題パターンが大好きです。つまり、判例の事案だけを知っていても意味が無いわけです。こういった問題に対処するためには、判例との事案の違いを説明した上で、民訴法の原理を踏まえ、自説を説得的に論証することが有用です。
 本書より100頁薄いストゥディアは、判例を紹介した後、「こういう学説の批判もあるよ」という紹介が1,2行あるだけですので、上記の様な発展的論点に対応するためには、プラス100頁分くらいの論証集を「足す」必要があるでしょう。それに比べると、本書は、上手く使えば「基本書でありつつ、全論点を網羅し、そのまま書ける論証集でもある」という、まさに「これ一冊本」として使える可能性があります。これ+判例百選で民訴は終わり、みたいな。

 本書の(高橋語を除く)デメリットは、やはり、「400頁で民訴の全論点の判例を紹介し、自説を論じる」という常人では絶対不可能な内容を達成した副作用で、説明や理由付けがやや簡潔すぎる(憲法学読本と同様)ということです。これに関しては、とりあえず本書をメインウエポンとしておき、わからない部分は別の本で調べる、という使い方が良いと思います。本書のお供となるべき本としては、 

読解 民事訴訟法

読解 民事訴訟法

 

 がオススメです。重点講義民事訴訟法は、同一著者なので複眼的な説明を得ることがやや難しいです。民事訴訟法 第3版 (LEGAL QUEST)はとても詳しく、新堂・高橋説も解説してくれるのですが、本書とは反対に、判例&三木説推しなので、本書との相性はあまり良くないように思います。読解民事訴訟法は、割と中立的に判例・学説対立をみていく本で、相性が良いです。